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各駅停車のこと

 新宿から府中市内の最寄駅まで、久しぶりに各駅停車で帰つた。今年の2月に京王ライナーの運行が始つてからは毎回そちらに課金するやうになつてしまつたが、たまにはロングシートの座席に腰かけてチンタラと帰路につくのも気持がいい。

 かういふときには普通、特急や準特急といつた速達列車に乗ることになる。「府中はどの電車に乗ればいいですか」と訊かれて、各駅停車を案内する新宿の駅員はゐないだらう。比較的遠くの駅にはさういふ優等種別の列車を使ひ、短い距離を行く時には各駅停車や普通列車に乗る。多くの鉄道会社がそんなやうなダイヤ設定をしてゐて、お客さんもそれを了承した上で鉄道を利用する。いはゆる「遠近分離」である。

 さういふ訣だから、新宿から府中のほうまで各駅停車で乗り通す人はあまりゐない。自分以外の乗客は電車に乗り込んでもすぐにどこかの駅で降りてしまつて、またたく間に入れ替る。そんな各駅停車にずつと乗り続けてゐると、「都心と郊外」といふ大きなくくりとは別の、京王線といふ比較的短い路線の中でもさらにぶつ切りになつた小さな生活圏がいくつもあることに気がつくのだ。かういふやうなことを特急列車の通過待ちをしつつ外の景色をぼんやり見ながら考へてゐたときに、「青春18きっぷ」の旅行もこれと同じだと思つた。

 そろそろまた、「青春18きっぷ」の季節がやつてくる。いふまでもないが、1万円と少し払へばJRの普通列車や快速列車が1日乗り放題で、東京から岐阜県の田舎に帰省するときには大体いつもこの切符を使つてゐる。新幹線を使へば数時間で済むところを10時間以上かけて帰るのには、カネがない、新幹線では通り過ぎてしまふやうな街で自由に途中下車ができる、読書がはかどる等のさまざまな理由があるけれど、京王線の各駅停車と同じやうに、大都市間の幹線輸送向きでない小さな生活圏をつぎつぎに通り過ぎるあの楽しさが味はへるといふのもまた大きい。普通列車を通じて、静岡やら山梨やら長野やらの縁もゆかりもない街の人々の日々のくらしを垣間見るのである。どこかの駅で人が入れ替つて別の生活圏へ向ひ、気がつくとまた車内の顔ぶれが様変りしてゐる。旅行の大いなるよろこびのひとつはさういふところにあるだらうし、江戸から大坂までえんえんと歩いた弥次さん喜多さんの時代の旅には、今よりもさうしたよろこびを楽しむ余地があつたのだらうなと想像する。

 いつも思ふが、「青春18きっぷ」で旅をするといふことは、細切れになつた小さな生活圏をむすぶ普通列車、それぞれの街でくらす人々のための列車にあへて乗せてもらふといふことなのだ。「18きっぷシーズンだけでも東海道線の静岡区間に快速列車を走らせろ」などとのたまふ不届き者は、腹を切つて死ぬべきなのである。日本のメインルートを走る東海道線は18きっぷの季節になるといつも混雑するが、我が物顔でドカドカと電車に乗り込むろくでもねえ学生や暇さうな爺さん婆さん、乗換駅で猛ダッシュする鉄道オタクを見ると気分が悪い。そして自分自身もそんなろくでもない乗客のひとりであるから、沿線に住む人々に対し毎度申し訣ない気持になる。いつだか、薄汚い中年の男が「高校生うっぜ!」と吐き捨てて静岡駅で下車するのを見たが、アレが18きっぷユーザーだとしたら許されないことである。全国のローカル線を支へてゐるのは、何よりも地元の高校生たちなのだから。

 そんなことを色々と考へるとつらい気持になるので、最近では東海道線に乗らず、比較的混雑の度合の低い中央線に乗つて塩尻経由で帰省することが多くなつた。それでも塩尻から中津川までは、2両しかない普通列車が自分も含めたいはゆる「18きっぱー」で満員になるから、あまりいい心地はしない。「青春18きっぷ」で普通列車の旅を楽しむのは大いに結構だが、やはり地元の人々が第一であることを忘れてはならないと思ふ。

 結局、京王線の各駅停車で乗り通すのと、「青春18きっぷ」で旅をするのとでは事情が違つてくる。そもそも「青春18きっぷ」は普通列車の利用が少くなる閑散期に増収のため発売されるものである。今日の京王線で体験したやうに、地域ごとに細切れになつた「小さな生活圏」をつぎつぎに通り過ぎつつ、それぞれの街の人々の普段のくらしを垣間見るには、やはり閑散期でも繁忙期でもない、普通の平日に、普通乗車券を買つて旅行するべきなのだらう。しかし途中下車をしまくつて切符が下車印まみれになるのもそれはそれで恥かしいのが難しいところだ。鉄道趣味向いてねえな。
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帰つてきた涙目ソラリゼーション【発掘篇】

眠れぬ夜には、どうしても過去を振り返つてしまふ。6年前の大晦日にツイッターを初めて以来のpost数は76,000余り、某アプリで文庫本に換算してみると35冊にのぼるやうだ。リツイートも多分に含まれてゐるだらうが、我ながらたまげる。

結構前に、自分のアカウントの全ツイートが閲覧出来るやうになつた。深夜につらつらと眺めてゐると、高校生の頃から今に至るまでの自分が、さながら万華鏡を見るやうに思ひ出される。どんなアニメを観てゐたか、何を読んでどう思つたか、どんなものにいつ興味を持ち始めたか...自分の事でありながら、今となつてはすつかり忘れてしまつたことばかりだ。もはや何を意味するか分らなくなつてしまつたツイートもあつたりして、つい最近ツイッターを始めたと思つてゐたが、ずいぶん遠くまで来てしまつたなと、しみじみしてしまふ。

小・中学校では連絡帳か何かで散々日記のやうなものを書かされたが、ついに日記をつける習慣は身につかなかつた。しかしかうしてみるといつの間にか、ツイッターが自分を振り返る上での第一級の資料と化してゐた。

ところでこのステハゲブログも、気づかぬうちに開闢4周年を過ぎてゐた。更新頻度がツイッターに比べて以上に低いが、画像が多かつたり文章が長いぶん、また違つた過去の自分が見えてくるやうな気がする。特にどの写真が何の写真でいつ撮つたかなんてのは、ロクにネガ整理もしない自分にとつてはありがたいことこの上ない。

で、また深夜にこのブログの過去記事を眺めてゐると、こんな記事を見つけた。見つけたつて、お前が書いたんだが。
『涙目ソラリゼーション』
http://tnkmark1.blog.fc2.com/blog-entry-21.html

生産終了するからとネオパンSSを買つて現像したはいいがあらうことか定着液と現像液を間違へ、盛大に感光させてしまつたといふ涙を誘ふ記事である。当時も相当面食らつたやうで、こんな事をのたまつてゐる。

「ここで結果を晒して反省しよう。寧ろ引伸が樂しみになつてきた。
結果は後日。誰も見ちやゐないだらうが、刮目して待て!」

刮目して待て!と言ひつつ、4年近くも経つてゐたのか...(困惑) その問題のネガが手元にある。

黒杉ィ!でも太陽にかざすとうつすら写真が見えるので、じつくり焼けばなんとかなりさう。数年前の失敗ネガ、一体どうなるのか。今度こそ、刮目して待て!

哀しいなあ

また哀しい話を聞いてしまつた。

最大手がマッチ製造撤退=製造機の維持困難-兼松日産農林
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016092700816&g=eco

兼松日産農林がマッチ製造をやめるらしい。需要が激減したのと、設備の老朽化が要因みたいだ。あの黄色い像や燕、白い桃がタバコ屋からコンビニから姿を消すのか。と、思つてゐたらこれらの商標は他のメーカーに譲渡するといふからまだいいけれど、幼い頃から理科の実験なんかで見慣れた「兼松日産農林株式會社」の10文字が見られなくなつちやふんですね...

そんなマッチ受難の時代である昨今だが、最近大型徳用マッチを買つた。いや自分が買つたワケではないのだけど、とにかく自宅でタバコの着火具として使つてゐる。銀塩フィルムといひレコードといひ、新技術によつて淘汰されつつあるものが、若者にとつては逆に新鮮なものとして映るといふ現象がここでも起きてゐる、ハッキリ和姦だね。



普通にデカすぎる、訴訟も辞さない。左側の一般的なマッチ箱で概ね40本、右側の大型徳用には800本ぐらゐ入つてゐるらしいので、大体20倍か。一日一箱吸ふとすれば40日で消費できる計算になるが、いつも自宅で喫煙するわけではないのでもつと時間がかかるだらう。これだけ大量に入つてゐるので、箱の側面全てが側薬となつてゐる。といつても内容量には全然見合はず、以前にも徳用のマッチを買つてみたことがあつたが、何も考へずに擦りまくつてゐるとすぐに側薬を使ひ果してしまひ、結局使ひ物にならなくなるんだよな。と、いふワケで今回は戦略的に擦つて行くことにした。

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側薬全体を正方形の区画になんとなく分け、なるべく消費しないやうにちまちまと小さいストロークで擦つて行く。ひとつの場所で側薬を使ひ果したら隣の区画に移つて、そこも使ひ果したらまた...といふやり方。何だか焼畑農業みたいだ。上の画像みたいにある程度開拓が進んだら、耕作が終つて火が着けられなくなつた部分の端から端まで一気に擦ることで、また何回か着火することが出来る。これなら前回みたいにならず、最後まで使ひ切れるだらう。

なんて頭がいいんだ、フェっフェっ、と調子に乗つてゐたが、どうやら側薬が単体で売られてゐるやうだ。でもそれも少し違ふだらう。やはりデフォルトの側薬で最後まで行きたさは、あるね。

周りの人間のあひだで「ストライカーユニット」と呼ばれてゐるこの側薬くん。パンツを穿いた女の子達が空を飛ぶアニメ『ストライクウィッチーズ』にちなんだものだが、どうやら本当に「マッチストライカー」といふらしい。まア結局使ひ切れなかつたら世話になることもあらう。とにかく今は、数10センチ四方の農地で焼畑農業に従事して行きますよ~行く行く...ヌッ!

現像完了です...(達成感)

高校3年の頃は受験生の身分でありながら、行事等で写真を撮つてはゐた。ただ流石にじつくり現像する時間を設ける勇気は無かつた。大学に入つて暗室作業を再開したが、これまで散々書いて来た通り途中で不登校状態となり、これはつまり暗室のあるところのサークル棟からも足が遠のくといふことであるから、再び写真を撮りはするが全く現像しないといふことがしばらく続いた。さうかうする内に未現像のフイルムは溜まり続け、最近やうやくまともに学校へ行けるやうになつてから、それらのフイルムを暇を見つけてはちまちまと現像してゐる。今回のシュテックラー氏式二浴現像液のテストも、過去に撮影した未現像のフイルムを使用した。

あらかじめ作つておいたA液とB液を用意し、手順に示された通りに現像していく。これまでは「現像液」としてあらかじめ調合された既製の薬品をただお湯に溶かして現像してゐたが、今回は違ふ。メトールを、亜硫酸ソーダを、硼砂を、それぞれ単体で溶液にして現像タンクに突つ込んでも、臭化銀中の潜像が浮び上ることは決してないのだ。これらを混ぜ合せたところで果して本当に現像されるのかしらん。自然科学に素養のないダメな文系学生としては、普通に不安がよぎるんだよなあ...さうかうしてゐるうちに現像・停止・定着まで滞りなく作業が進み、いよいよ全暗黒の現像タンクからフイルムを取り出す。

ちよつと感動してしまつた。紫がかつたセルロースの支持体に、明暗が逆転した過去の記憶が乗つかつてゐる。現像したんだから当たり前だが、現像液の自家調合なんか初めてだからね。思へば、数年前に初めて現像した時もさうだつた。撮影済のフイルムを得体の知れない薬品に漬け込んでえつちらおつちら撹拌すると、ちやんと現像出来てゐる。目の前の光景を感材に焼き付けて再現する写真といふ行為。今となつては何の有難みもないが、その喜びを改めて感じられるところに、自家現像の醍醐味があるんだらうなあ。今回の暗室作業で、そのあたりを再確認出来た。

それから出来上がつたネガをスキャンしたのであ、上げますよ~。フイルムはイルフォードのDELTA 400くんです。

い

あ

う


おお、普通に現像出来てゐる。ネガをスキャナで取り込んだだけなのであんまり綺麗な写真ではないが、まあ問題ないのではないでせうか。

何しろ2年ほど前に撮つたネガなので詳しいことは覚えてゐない。1枚目はおそらく上野東京ライン開業初日の東京駅。2枚目はおそらく高尾山の登山道。それから3枚目はおそらく練馬某所。すべてに「おそらく」を付けねばならない。哀しいね。ただExif情報で撮影日から何から全部分つちやふといふのもそれはそれでつまらんので、まあいいか。

とにかく、シュテックラー氏式二浴現像で大丈夫といふことが分つた。まだ単薬はたんまりあるから、これでしばらく淀橋浄水場跡地のお世話にならなくて済む。

太いシュテックラーが欲しい...

あんし

さて、いよいよ単薬を調合して二浴の現像液を作りますよ。レシピは以↑下↓中川一夫『現像引伸のうまくなる本』(昭和52年 朝日ソノラマ)から引用したゾ。

【A液】
水...750cc
メトール...5㌘
無水亜硫酸ソーダ...75㌘
水を加へて...1,000cc
【B液】
硼砂...10㌘
水を加へて...1,000cc

何故か電子天秤が家にあつたので非常に助かつた。本当は実験用の薬包紙とか薬匙があつた方が良いのだけど、わざわざ都区部の東急ハンズくんだりまで足を運ぶのは面倒なので、その辺にあつた紙切れと、コンビニで貰へるプラスチックのスプーンで代用。厳密にやるなら宜しくないのかもしらんが、計量する上で特に問題は無かつた。

つ


そんなこんなで現像しますよ~するする...ヌッ!定着液だの水洗促進剤だの、酢酸だのドライウェルだのを一気に机の上に置いたら何がなんだか...これもう和姦ねえな。現像時間は液温24度でA・B共にそれぞれ4分程度。A浴ではただ単に現像主薬をフイルムに染み込ませるだけで現像そのものは進まず、次のB液がアルカリ性の溶液になつてゐるので、ここで染み込んだ主薬による現像がどんどん進む、といふ仕組みらしい。それ故A浴の後に水なんか入れてしまふと全く意味が無いワケで、注意が必要ですな。
はてさてどんな結果になるのか、楽しみなところである。